2014年10月5日日曜日

アニメ「ハイキュー!!」の凄さ

 この9月までの1クールで見ていたアニメは「残響のテロル」と「ばらかもん」だが、それだけでなく、その前のクールからの引き続きで見ていたのが「ハイキュー!!」である。
 4月に新番組が次々と自動的に録画されていくうちに(ハードディスクレコーダーをそういう設定にしてある)、その一つとして録画されていたのが「ハイキュー!!」だった。
 そういう新番組は、片っ端から冒頭の所を見て、特筆すべき特徴のないもの(美少女やイケメンがわらわら出るような学園物やファンタジー)を、ばさばさと消していくのだが、「ハイキュー!!」も、それが「配給」でも「High-Q」でもなく「排球」のことだとわかって、特にスポーツ物を見る動機もないから、即座に消そうとした。
 だがその瞬間、一緒に新番組チェックをしていた娘が「待った」をかけた。彼女はその、「少年ジャンプ」連載のマンガであるところの原作を知っており、予め見る気でいたのだった。一瞬の遅滞でもあれば、ボタンを押して消してしまうところだった。すんでのところで消去を免れた第一話を娘と見ているうち、これは悪くないと、当面様子をみることにしてから半年、結局近年、最も面白いアニメであるという評価で最近放送を終えたのだった。

 原作はちょっとしか読んでないので評価できないのだが、もちろんこういうのは基本的に原作が良いのだろう。原作を超えるアニメはほとんど存在しない。あれほど素晴らしかった「ピンポン」も、その出来に感心して原作を読み返してみると、決して原作を「超えて」はいないのだった(もちろん松本大洋のあの原作のレベルに匹敵するようなアニメを作ったということ自体、湯浅政明をいくら賞賛してもしすぎることはない)。
 だがアニメ版「ハイキュー!!」が素晴らしいことも間違いない。ほとんど毎回、娘と見ていて歓声を上げてしまう場面があり、その回の放送を見終わると「いやあ、面白かった」と言わない回がほぼなかった。アニメーションとしての作画や演出がきちんとあるレベルを保っていないと、こうはいかない。
 たとえば、しばしば感心するのはボールの動き。手前に飛んでくるボールの大きくなるスピードと画面上を移動するスピードで、ボールが飛んでくるスピード感が表現されるんだろうが、これがリアルなのである。また、ボールの回転によって軌道が変わる様子もリアルだ。フローターサーブの、回転が止まって軌道が揺れるところなんかも実にうまい。ボールの表面の凹凸も丁寧に(たぶんCGで)描き込まれている。
 あるいは主人公、日向の特長である瞬発力が観る者にきちんと感じ取れるのも優れたアニメ技術ゆえだ。たぶん、単純な画面に対する横移動だけでスピードを表現しようとしたのではあのダイナミズムは出てこない。画面の奥行きに対する移動、基本的にはカメラに接近する動き、つまり対象物(日向の体)の膨張スピードと、決めポーズで静止するタイミングが適正にコントロールされているから、そのスピード感を実感して観る者の意識が一瞬で引きつけられてしまうのだろう。
 だがこうしたアクションのレベルの高さは、SFでもバトルものでも、感心するようなものが少なくない。先日批判した「残響のテロル」も、アニメーションとしてはよくできていた。だからやはり「ハイキュー!!」の素晴らしさは基本的には物語の持っている強さに拠るのだろう。娘と二人、最も熱狂して見終えた第23話「流れを変える一本」(9月7日放送)を例に考えてみる(すぐにでも書こうと思って、もう一ヶ月も経ったのだが)。

 物語は県大会の三回戦、練習試合の経験のある因縁の相手との試合は1セットずつ取ってのファイナルセット終盤を迎えている。結局は準優勝することになる相手校は強豪といっていい。ラリーが続くとじりじりと実力差が表れる。
 この、「実力差」や「強さ」をどう描くか。現実には「強さ」は総合力の差だろうから、単にこちらがミスするか相手のスパイクが決まるかだ。だがそうして相手が得点するというだけでは何ら劇的な要素はない。だから、何らかの形でその強さが「特別」であることを示さなくてはならない。そこで、冒頭から次のようなプレーが描かれる。
 味方サーブを、後衛に回った敵方のキーマンであるところのセッター・及川がレシーブする。このボールをリベロが上げ、それを及川がバックアタックで決める。
 このプレーが強い印象を与えるのはなぜか。まず及川がレシーブをしたということは及川自身がトスを上げることはできないから、このプレーでは相手方には強い攻撃ができず、こちらのチャンスであるという観る者の期待を、直後に及川自身のスパイクが打ち砕く、という、観る者の感情を上げて下げる力学が効果的に働くことに拠るのである。
 さらに、トスを上げるのがリベロである点にも仕掛けがある。ここでコーチが、素人である顧問教師に向かって解説する(この設定も巧みだ)。リベロはアタックラインの前でオーバーハンドのトスを上げてはいけないというルールがあるのだが、このプレーでは、リベロはラインより後ろで踏み切って空中でトスを上げているのである。「咄嗟にハイレベルな攻撃ができる」「これが強豪…」。
 次のプレーの描写も見事だ。
 味方のスパイクに対する相手のレシーブが、ふわりと味方コートに戻ってくる。レシーブボールが敵側にまで返ってしまうのはむろんミスだから、レシーバーの「しまった」という表情が写され、ボールが上がったところからはスローモーションになる。チャンスである。ダイレクト・アタックを決めるべく、主人公・日向がネット際に跳ぶ。日向のジャンプに「押し込め!」という味方の声が被さる。ネット真上の天井からのカメラワークでボールへ向かう日向の手がボールに近づくのにつれて高まる期待に、ボールに届く直前に、画面下から浮上して、日向とボールの間に挿し挟まれる及川の手が影を射す。及川の手がボールを自陣へ戻すと同時に再生スピードを戻して、後ろから跳んだアタッカーがスパイクを決める。及川の手がボールを自陣に引き戻す時には、スローモーションであるという以上に「ため」のある描写によって、直前の期待を裏切るその一瞬を最大限(しかし間延びしないタイミングで)見せておいて、決着は一瞬で見せる。この緩急の切り替え。
 二つのプレーのどちらも、実際の試合の中では起こる頻度の低い、だが不可能ではないプレーである。いわゆる「必殺技」的な物理法則無視のスーパープレイではない(「リンかけ」の「ギャラクティカ・マグナム!!」的な)。こういう、作者の経験によるものか、丹念な取材によるものか、実に貴重なネタを冒頭に並べてみせ、その醍醐味をアニメーションが十全に描ききってみせる。
 そしてこのプレーの直後に、日向をアップにして、微かに嬉しそうな顔で「すっげえ!」と言わせるのだ。期待はいやが上にも高まる。
(今晩は限界なのでここまで。以下次号

0 件のコメント:

コメントを投稿