2015年9月25日金曜日

『ショーシャンクの空に』(監督:フランク・ダラボン)

 初めてではない。
 例の『ウォーキング・デッド』の最初のシリーズの監督・脚本がフランク・ダラボンだということと、最近観ていた『アンダー・ザ・ドーム』の原作がスティーブン・キングだということで、同じ原作者、監督といえば『ミスト』『グリーン・マイル』『ショーシャンクの空に』だろ、という話題になった。悪名高いバッドエンド映画の『ミスト』は子供たちも観ていて、悪評は定着しているが、『ショーシャンクの空に』はそんなことはないと言って、この際だから観てみようと言うことになった。
 久しぶりだが、やはり隅々まで面白い。印象的なエピソードが次々と連続して、2時間20分がまるで長く感じない。基本は抑圧とそこからの解放によるカタルシスだが、最大の抑圧は当然、無実の罪で収監されているという状態で、脱獄が文字通りの解放というわけだ。だがそれだけではなく、刑務所内でのさまざまな抑圧に対して、主人公が創意と工夫と勇気と意志の力で乗り越える各エピソードに、それぞれカタルシスがある。原作が良いのか、監督自ら脚色したシナリオがいいのか、実に上手い。演出ももちろんだが。
 今回とりわけ印象的だったのは主人公の「不撓不屈」だ。モーガン・フリーマン演ずる先輩囚人が「希望は毒だ」と語るのは、現状認識として、またその限りでの処世術として有効だ。男色の囚人や看守への服従を受け入れるか、囚人としての生活を希望のないものとしてただ過ごすか。何より、無罪放免の希望を捨てられるか。
 そういえば、脱獄物はどれもこの「不屈」がどれほど強く観る者の心を揺さぶれるかが勝負だとも言える。スティーブ・マックイーンのタフぶりと明るい「不屈」が印象的な『大脱走』『パピヨン』、絶望感がとりわけ強いだけに、刑務所を脱出するラストの主人公のステップが感動的な『ミッドナイト・エクスプレス』、『アルカトラズからの脱出』のクリント・イーストウッドの寡黙な「不屈」に比べ、同じアルカトラズ収容所からの脱出を描いた『ザ・ロック』が、映画としては面白かったが、感動的とは言えなかったのは、やはり絶望との闘いが描かれないからか。日本では、吉村昭の原作も素晴らしいがNHKドラマの『破獄』も緒形拳演じる主人公の「不屈」ぶりが感動的だった。
 そして『ショーシャンクの空に』のアンディを演ずるティム・ロビンスの素晴らしい演技。「不屈」の代償として独房に入れられることになろうとも、希望を捨てないことに浮かべる満足の笑み。アカデミー賞ではモーガン・フリーマンが主演男優賞にノミネートされているが、どういうわけだ。主演男優賞はティムで、モーガン・フリーマンが助演男優賞を受賞すべきだった。
 だが、考えてみると、絶望に陥りそうな状況に希望を見出す「不撓不屈」は、程度はどうあれ我々の日常にも問われているものだ。我々は常に、にわかには「絶望」とは見えないものの、多くの希望を諦める虚無主義と闘って生きているはずだ。刑務所はそれを拡大して見せてくれているだけだ。
 だからこそ、主人公の貫いた不撓不屈が、あれほどまでに心を打つのだろう。

 アカデミー作品賞のノミネートと宣伝されているものの、受賞ではないというからには受賞作が気になる。調べてみると『フォレスト・ガンプ』なのだった。なるほど。主演男優賞はトム・ハンクスなわけだ。
 もちろんあれも良い映画だったが、どちらと言えば『ショーシャンクの空に』だろうなあ。だが、刑務所を脱獄してメキシコへ逃亡する主人公を描く映画よりも、現代アメリカ史を舞台にアメリカン・ドリームを描く『フォレスト・ガンプ』がアカデミー賞にふさわしいのはやむをえない。

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